あとりえあげん

劇作家・ミュージカル関連のコミックエッセイスト・多摩美校友会理事 活動ベースは三軒茶屋ですが八ヶ岳の別荘で在宅介護はじめました☆

[ブログ版] 世田谷区三軒茶屋で隠居してます。ときどき劇作家。HPはコチラ http://agen.web.fc2.com/

『レ・ミゼラブル』を観た

2009.10.8 18・15〜 帝国劇場

この開演時間ぢゃ大好きな ♪泉で〜 のパートが観られないぢゃないかぁ!
 (ToT)
と、ぷーぷー言ってたのですが、
会社を飛び出し2駅先の劇場に駆け込んだら、囚人登場の音楽で、
件のシーンはロビーモニターで触れられました!!
ニュアンスまでは無理だけれど、充分ご褒美をもらった気分になる。

ところで。

近年稀のいい感じの『レ・ミゼ』でございましたよ、チケットを買ってないみなさん。
何十年ぶりに感情を揺さぶられて、何度も。
あ〜、『レ・ミゼ』はこーでなくっちゃねえと思いました。 祈・健闘。

声、がね。
美しい発声というよりも、その人らしい豊かな声を目指している、って印象。
オケの音楽がね。
楽器の音のひとつひとつが際立っていて、メロディを、ハーモニーを、世界を、歌う、歌う。
人々の思い、がね。
ひとつの流れにまとまっていないのが逆に、雑多な人々が世界をつくっているというエンディングにつながり、
大勢の人々の死や、祈りに守られて、若いカップルに未来が託されてんだよってメッセージが強くなった、気がする。
あなた方のすべてが、コゼットでありマリウスです。

         [E:sun]

今回、チケットは(不幸な成り行きの結果 (`^´) )2枚とも2階席で、これは神さまが俯瞰的視点を持ちなさいといってるのダと思うことにしたのですが。

なるほど。
一目見て、ああ、アンサンブルさんたちの重心が高いんだってことが、よくわかった。
社会や人生に押しつぶされたミゼラブルな人たちは、物理的に(空気に)重く押しつぶされ、這い回っているはずでは?
立ち上がろうとして立ち上がれない身体の重心。 それでも前に這い出そうとする重心。

段取りが、いろんな段取りがむちゃくちゃ細かいことはわかっているのだが、
動機を確定(迷いも含む)しないで動作するから、段取りにしか見えないんだってばぁ。
そこで手を出すってことは、すごい決心の結果なんだよ。 無意識に出すな〜。
音楽と段取りがすばらしいからって、寄りかかっていては何も産まれてこないんだってばぁ。
というのは、……相変わらず、ですか。

何のためのスローモーションか。
手法としては古いんだけれど、『レ・ミゼ』での使われ方は画期的だったんじゃないかと思う。
その意味合いを、ここで安易に断定していいものかは、むずかしい。
時間を壊してみせられた側は、一瞬流れを止められて、息を呑む。 時間がもとにもどったとき、一気に息を吐き出し、どきどきと期待を想いを高める、はず。 
……あの筋肉のなさは、コンテンポラリーダンスを観てる眼にはキビシイです。

ありゃありゃと感じたのは、こんくらい。 

(初演プレビュー以降、そりゃあ何十回と視ているので、アンサンブルがどこで何をしているのか結構わかっているし、そのシーンが実はこっちに繋がっているって楽しみながら別途大筋を楽しんでいるのだと思う。 だから無意識なチェックが細かいんだろうが、リピーター客の多くはそんなもんだと思うよ)

         [E:sun]

禅さんのジャベール。
あれ? えっと、ジャベールってさ、あれ? んん? ? ?
わたしは無意識にジャベールってコンナな人物、と予定して観ていたらしく、しばらく混乱しました。
夜も眠れず恋人のようにバルジャンへ想いを馳せる、自分への内省を繰り返す、とでも言えばいいのか。 ちょっと違うか。
バリケード内でのふたりのやりとりが、なんともステキで。 (山口バルジャンが、この時間を内心わくわくしてるのかワカル)
対決じゃないの。 決裂しているのだけれど、一番近い相手として向き合い、お互いに困惑しているの。 その直後、ジャベールがダッシュしたのには面食らったが、新鮮♡でした。

坂本さんエポニーヌが、
どんなときでも人生を楽しむフランスの女の子だった! これがなんともステキ!
『オン・マイ・オウン』をとてもシンプルにまっすぐ歌っているので、ここだけはオケが歌いすぎてバランスが悪かった気がするのだけれど、どうなのだろう。
菊池さんコゼットは、
すくすくと悩みをしらないキャンキャンっ娘。
……今を生きている女の子たちだなぁと楽しかった。 日本的な悲劇に縛られる役作りから脱却しているのが、頼もしいよね。
小西さんマリウス、
一途な恋と男の友情の間で揺れる、そのときの気持ちが丁寧に伝わってきて好感。

ちびコゼ飯田さん、ちびエポ吉井さん、ガブ吉井さん。
おとなたち、ウカウカしていると笑われます。 
存在しているだけで心打たれる。 ちゃんとその役として、存在している。
ガブローシュの投げる鞄の、重さとかバランスとか、配役ごとにちゃんと面倒見てあげているのかなぁとふと思う。 (わたしが観る回は、お、惜しい!ってことが多い。 届かないことでドラマも構成できるはずだけれどね)

今井さんファンテーヌは、天使(って解釈でいいんだよね?)がすてきで、
バルジャンの人生に(神との)決着をつける役目をしている。
ファンテーヌが天使になり得るって説得力は、キリスト教信者さんには大きな救いなのかなぁとか考える。

原田アンジョルラス、
声が魅力的で。 マリウスとの友情が熱くて、かっこよくて。 リーダーシップというより、ひとりの人間としてみんなに支持されたんだろうなぁと思う。
実はわたしは、アンジョルラスがこの芝居のすべての芯を担うと思っているので(おじさんたちは悩んだり戸惑ったり喧嘩したり赦したりとブレるのに忙しい)、
うれしかったのでした。

テナルディエ夫妻がはじめさん+田中さん。
世の中をなめて、したたかで、楽しげで、なんともしあわせそうなご夫婦だ。
宿屋での嫁のグチのパートが、ほんっとにささいなグチって歌い方で、あ、これでいいんだと笑いたくなる。
この役だけは、他のキャスト、組み合わせはどうなんだろうとすごく気になるよねえ。
全部が全部よかったりしたら、それもそれで役者は嘘つきの始まり〜!と叫びたくなるかもねえ。 夫婦の時間の共有って、実は簡単にできるってことになっちゃう? 
卑屈から翻って、去り際に高笑いするはじめさん。 月を見上げて神さまにタンカを切るはじめさん。 いいよねえ。

 

うん。 山口バルジャン、ね。
全部、洗いなおして、53歳の男の芝居になっていた。 すべての役との距離感が、真新しく書き換えられていて驚いた。  
この単語には、こんな意味も含まれていたのかと、たくさん発見させてもらった。
なんだろう。 優しくてふところが大きくなった気がする。 (当社比?)
そして、ちゃんとクリスチャンだった。 人間関係の向こうに、よくも悪くも神さまとの対話があり、自分とすれ違うものには精一杯心を配る。 で、これでよかったんですよね?と応えぬ神に問い続ける。 
ツイこの間まで吸血鬼(オニだよ、オニ!)やっていたのに、ね。
つくづく魔法だ。
(そういえば、忘れてた3つめ思い出したよ。 というより全開だったから。 内心爆笑)

 

         [E:sun]

 

演劇ではなく、ミュージカルだからこそ伝えられること、創れる世界。
そんなことを久々に思い出させてもらいました。 ありがとう。