あとりえあげん

劇作家・ミュージカル関連のコミックエッセイスト・多摩美校友会理事 活動ベースは三軒茶屋ですが八ヶ岳の別荘で在宅介護はじめました☆

[ブログ版] 世田谷区三軒茶屋で隠居してます。ときどき劇作家。HPはコチラ http://agen.web.fc2.com/

『サロメ』を観た

客席に座り、
そうだ。 今日はずぅーと開次さんだけを観てていいんだ!と気付き、わくわくする。
ふははははは。(居直り) はぅあ〜♡(溜め息)

2009.10.22 19・00〜 東京グローブ座

まあ、演目・主役を見ただけで、これはもう篠井さんのための企画だなとわかりきったことで。
「7枚のベールの踊り」(だっけ? テキストが手元にないので確かめられません)だなんて、もう、ねえ?
逆を言えば、だから森山開次をヨカナーンにと、強いキャスティングができたとも言える、のかな。

わたしがテキストを読んだのは、20代の前半でしたか。 力強い戯曲の骨格と、どうすれば効果的な舞台構成が組めるのかさっぱりと見当がつかない、というのが印象で。

ヘロデとヘロデア(だっけ? テキストが手元に……)が、ぐちぐちと夫婦の会話をしているところに、牢獄のヨカナーンの叫び声が邪魔をするって構図。
どうすればって、
こうすればいいのか……。 わたしにはつくづくと、演出の才能がないと思い知る。
傾斜舞台(の変形)の中央に穴を作り、そこを牢獄に見立てたのです。
だから処女サロメが囚われ人にこわごわと興味を持ち、やがて恋に落ちる様子も実に効果的に組める。

もしかしたら、なのですが、固有名詞をすべて削っていたような。
ヘロデもヘロデアも、ヨカナーンも。
一度だけ、ヨカナーンが「サーメ!」と叫ぶ以外は……全部?

衣裳がジュサブローさん的な、和洋折衷、ビーズと金糸銀糸がきらきら路線だったし、
椿の花がとてもキレイに使われていたし、
タイトルにも「翻案劇」と冠がついてるし。 
だから外国の言葉を、削ったのか? ヨカナーンは修験者と訳されていました。 (いや、基のテキストでも修験者とは説明されていた気がする)

でもあの最後付近で繰り返される名台詞から、ヨカナーンが削られてても違和感・失望は全然ありませんでした。
おまえに口づけするよ、ヨカナーン。 わたしを罵った、その唇。 ……わたしはおまえに口づけしたよ。
(正確な台詞はテキストで確認してね)

 

開次さんが、鍛錬された肉体と振り乱す黒髪も含めて、修験者ヨカナーンそのもので。
時には手話を思わせる印を結ぶ動きをモチーフにした、両手の饒舌。
そして声。
声が届いている。 響いている。 客席に。 まっすぐと台詞が。

一番どきどきしていたのは、どうやってヨカナーンの首を表現するのだろうという点で。
だって、
森山開次を使って、細工モノの首だけで終わらせるテはないだろうけど。
どうすんだろうって。
……うぉっ。 開次さんは全身と舞台全部を使って、落とされた(落とされる、じゃなく、落とされた)首を踊ってみせたぁ。 すごいです。

そして鬼のように、顔をゆがめてガナリたてていた人が、幽鬼の無表情で首を表現された人が、カーテンコールではあのにこやか〜な笑顔で。 それはうれしそうに、恥ずかしそうに。
……魅力です。 

 

篠井さんが最初に出てきたとき、やっぱりサロメは10代に見える女優の仕事じゃないかなと思ったのですが、
あ〜、その台詞の裏には女の子のあんな気持ちやこんな気持ちがね〜とか。
処女だったら、そこはこんな表情が活きるはず、とか。
でも後半の、特に踊った後の表情・動作の作りこまれようは、歌舞伎の様式が染み込んだ篠井さんでなければの所作で。
無知な赤姫ってマジ怖いな、と。 美しく怖いな、と堪能。

サロメ』は少女の狂気じゃなかったのね、と知る。 無知で純粋な処女の正気な夢が、世界の正気を陵辱する。

最後の衣裳は、なんでそれを選んだんだ???と思っていたら、最後の最後でギュスターブ・モローの絵を思い出させる構図で幕にする意図だったようで。

首になったヨカナーンの唇を、自分の乳首に押し付ける構図は、どーなんだァ?と。
他の人たちは(腐女子的な意味で)どきどきするのか?
若い女優が遠慮なく同じ動作をしたら、わたしはもう少しどきどきするのか?とか。
篠井さんもエッチくならないように制御されてたみたいだし。

全編を通して、計算された趣向はすばらしかったです。
サロメの赤い衣裳の襟元(ちらしとは違います)の立て方がむちゃくちゃ美しい!! 篠井さんに女の胸を(痛みを)与えているように見える。

 

と、実にわたし好みの舞台のようで。
わたし好みではないのは。 

篠井さんのワンマン・ステージショーが様式美に終始してしまい、
肉体として相手に恋をしていなかったからであるように思います。

でもこれ以上の『サロメ』の舞台は、そうそう観られないだろうなぁ。
(この1作しか観てませんけど、そう思う)