あとりえあげん

劇作家・ミュージカル関連のコミックエッセイスト・多摩美校友会理事 活動ベースは三軒茶屋ですが八ヶ岳の別荘で在宅介護はじめました☆

[ブログ版] 世田谷区三軒茶屋で隠居してます。ときどき劇作家。HPはコチラ http://agen.web.fc2.com/

「R」を観た 4回目

「醸す」という言葉が日常になったのは「もやしもん」というコミックのせいだけれど、
青年コミックを読まない人にはただの日本語、でしかないよね。 
ということを前提に。
(因みにウチの本はちょーふのお薦めでぶみさんがお持ち帰り。 話は逸れるが、ぶみさんに「もやしもん」を薦めるか?と思ったわたしは「へうげもの」も持たせましたw)

長期公演の舞台や役者さんを味わう醍醐味のひとつは、確実にこの「醸し」。
(醍醐ってのがそもそもチーズの原型だしな)
熟成前の若いワインも、
熟成の途中経過も、
熟成にかかった時間やそのための心意気も、
……失敗、も。
この味わい。 賞賛と失笑。 共感。 贅沢で残酷なお楽しみです。
昨日今日のエセ演劇マニアには、お気の毒にもわかるまい。 
舞台ってのは醸され続けるナマモノ(って言い方は自己矛盾を含むか?)なのだよ。

なんてことを、わたしが今さら書き出したのも
重箱の隅をつついた他人のコメントの確認をしに客席に座っているのかい?というような目撃をして、
あらゆる人たちに対して失礼な!とも、
せっかくの素直な喜びを取り逃がして哀れな……とも
不愉快な思いをしたからです。
(不愉快な??? 楽しんでなかったか、自分?)

そりゃあさ、人が限られた時間と予算の中で作ったものだから。突っつく部分はいくらでもあるさ。
あの…………。

(以下ネタばればれなので、未見の方は[E:danger]立入り禁止)

あのトレンチ、ワンサイズ上はなかったの?とか、あの白いスーツ(麻じゃないよね)や室内ガウンは英貴族というよりアメリカ成金趣味じゃないの?とか。
だいたい明るいモンテカルロの中であえてダークスーツって方がマキシムには似合うでしょう、とか。
裁判シーンでの椅子と机の高さは、あれがベストなのか?とか。

客席にぽろぽろと洩れるライティング、気がそがれるんだけれど、とか。
あの赤い照明は血の色であって火事(焔)の赤じゃないけど、計算の上ですか?とか。

でもそれは作品そのものの価値を左右することか?
それ以上にスゴイことを、人間の肉体がしてみせているんだよ?
「普通の人は見落とすようなこんな細かい○○が残念だった」というコメントを振り回せば自分がたいした者に見られると勘違いしている評論家や観客、ってか日本人、多すぎませんか?

もっとも、
祐くんのシーンで客席中が息をのんで世界に取り込まれているのを見て、
ザマーミロ! これが祐くんだーい! とほくそ笑んでいる自分も、かなりヤラシイけどね。
[E:happy02]

 

もひとつ余談、
昨日の午後は3時間以上ヘア・サロンにいたわけで。
そのあとは磨いた自分でスペシャルデートな気分♡で劇場にいたし(えへへ)、
だから、

レベッカがロンドンの美容院で1時間、という言葉が妙にひっかかり、
それを糸口に、
マキシムへの屈折した愛が、感じられて。

 

というのも、白状すれば昨日は意識して祐くんしか見てなくて(ひゃあ! すみません)、マキシムという人間が見えてきたからで(ドラマを優先して見ていると、"Ich"の眼を通しているから謎めいてしまう)。
それは、ベアトリスやフランクの、マキシムを見つめる気持ちが見えてきたからでもあり。
(うん。 この舞台では、焦点が自分にないときに、みんな静かにいい芝居をしているの)
見守る友愛ってステキだなあと感じさせてもらったというのもある。

きっとマキシムは、
小さい頃はおねえちゃんの背中に隠れてばかりいる内気な男の子で、
甘やかされてはいるから自制心は弱く、
ある日を境に遺産(莫大な資産や領地や使用人)を引き継ぐ立場になり、
それでも重い責任を戸惑いながらも受け止めて、
ゆえにレベッカという輝かしい美女に心奪われ、ふりまわされて。
悲劇に縛られるようになってしまい。 
取り繕うとする一方で、ゆっくり壊れかけていたんだろうな。
モンテカルロで"Ich"に心惹かれたのは何故なんだろうというのは、わたしにはまだ宿題。
ただマキシムは生まれ育ったマンダレイを熱愛していて。 それがすべての支えだったんだろうなと思う。 あのね、火事のシーンのマキシムから、ふっと一番最初の影コーラスが響いてきたんだよ。 それがね、きゅぅんと心に響いていったの。

 

金と名誉目当てにつかんだ結婚でも、レベッカはマキシムが歯がゆい一方、不器用にしか愛せなかったんだろうなあ。 マキシムは世間知らずで女慣れをしていないから、レベッカを全然扱えなかったんだろうし。 しみじみ。

美容院に行き、
クラブで昼食を取り、
偽名を使って医者に行き、
衝撃を受け、
自宅に帰り、
ボート小屋に引きこもり、
自分を理解できない亭主と対決する。
……すごく孤独。

しかも。

このドラマを観ていて、そんなレベッカに思いを馳せる者は少ないだろうし。

 

それはそれはカッコイイ! 演出家が絶対に恋をしてるぞ!ってくらいにカッコイイ!ミセス・ダンヴァースの。 
終幕にかけての狂気が、柔く柔く崩れていく様に変わっていて、息をのんだよ。

指揮者が、(こんなスゴイ人だっけ?なんて、実に失礼な話ですが)
音楽(オケ)と役者とを会話させるように持っていってて、
これは今までなかった振り方じゃないのかな? (もしくは、わたしが解るようになったのか?)

ほら、ね。
も1回、観といたほうがいいと思うぞ。 (素直な視点で)

 

2008/5/10 17・00〜 シアター・クリエ
(休日に観られるのはこれが最後。 あとは会社帰りに、髪を振り乱して駆けていきます)