「かの女、大丈夫かなあ」ふと話題が途切れたとき、たいちクンがつぶやいた。
誰を指すのかはすぐにわかった。
街のイベント『三茶de大道芸』のお食事会。年に数度、橋本プロデューサーが芸人さんやボランティアスタッフに手料理をふるまってくださる。わたしはボラ・スタッフ。
で、たいちクンは見習いから脱却しつつある芸人さん。去年の東北支援のツアーでご一緒だった。
わたしたちが気にした風景ってのはね。
カーネル・サンダースのそっくりさんチャンピオンだとおっしゃるおじいさんが、若いお嬢さんのひとりを手放さずにずっとマイペースなおしゃべりをしていることで。
カーネルさんは最初、わたしたちの話の輪に割り込んでらして、そのマイペースぶりは楽しかったけれど、マイペースすぎて、話の折を見てそっとみんなでバラけた(逃げ出した)はずだった。のだが。ひとり、逃げそびれてたらしい。
ゆいちゃんというかの女は突っ立ったまま、にこにこと感じよく対応している。
ゆいちゃんは、なっちゃんが仕事先で知り合って、三茶に住んでるんなら今年からポラに参加しない?と、まず手始めにお食事会にお誘いしたのだと紹介された。
なので雰囲気をつかめないまま、振り回されている可能性が高い。
おじいさんにしてみればさ。若い美人さんが、にこにこと相手してくれるわけだからねえ。そりゃあ、またとない機会でしょう。
まぁ、でも、そろそろ、かな。
とりあえずおふたりに、椅子に座ったら?と勧める。
話に加わるカタチで一度4人体制にして、かの女の負担を分担させて、も一度バラける流れをつくろうとしたわけなのだが、カーネルなかなか手ごわい。
結局、わたしも巻き込まれただけ。
たいちクンってのはそれはそれは細やかな気配りのできる青年で、でなければ、芸に厳しいジェンさんのアシスタントが務まるはずもなく、カーネル相手のおしゃべりにも、逃げずにちゃんとおつきあいしてくれる。
でもね。ゆいちゃんも傍が心配するほど困ってたわけでもなかったらしい?
かなり天然ちゃんで、カーネルとのちぐはぐな会話が、めちゃちぐはぐで、これは新しい楽しさだった。カーネルが「おめかけさん」の是非について熱く語るんだが、「おめかけさんって何?」って、真顔でわたしに聞いてくる。
大笑いしていると他の人たちも寄ってくるけれど、去るのも早い。そんな内容。
トイレに行きたくなってきた。
けど、わたしも妙に律儀なタチなので、この状況を壊してからじゃないと立ち辛い。
会話の力関係を崩す。ふははは、すまんな、カーネル。
座をバラした。
トイレから戻り、コレットちゃんと立ち話しながら見やると、
たいちクンとゆいちゃんが、若い二人でいい感じに話していた。よしよし。
たいちクンのいろいろを、思いがけず聞かせてもらったんだよ。今やっていること、やってきたこと、やりたいこと。その芸を見たいな、こんなところがステキだと思うよ、極めてよ、とか。
ひとりの青年の、人生の入り口に触れる。少し口出しもしてみる。
かれはね、キチンと「立てる」ようになったらかなりかっこいいはず、と思う。
うん。パフォーマーにとって舞台にスッと存在できるってことが、どれだけむずかしいか。
と思いながら、
・・・・・・
イケてる青年に、にこにことお相手をしてもらって喜んでいる自分。
は、カーネルとさほど変わらないじゃん?と思い当たり、
・・・・・・
苦笑を少々・・・・・・