夕闇の頃。
会社の帰りだが、空にはまだほんのりと明るさが残る刻。
高架の下を流れるどぶ川に架かる橋から、怖々と水面をのぞきこむ。 暗くのっぺりとした澱みは思いのほか、近い。
一度はパリに行き、夜のボンヌフから遠く水面を見下ろさないとなぁと、ふと思う。
ジャベールが見たはずの最後の景色。
いつも思うのは、
クリスチャンであるジャベールが自死を選ぶほどまで追い詰めたバルジャン本人は、
ジャベールの絶望や惑いに全然気付いていないのであろうな、という皮肉。
他人の苦しみを共に背負うことをモットーとしていたはずの男の
最大のにぶさ。
善意はある種のにぶさ、想像力の欠如を伴うのかもしれない。
バルジャンの善意が、ジャベールを殺し、かれの魂を神の御許から遠ざけた。
それを「知らない」ことが、聖人バルジャンに与えられる恩恵なのかな。
でもね。
価値観の揺れ幅の中で思い惑うジャベールは、欄干から手を離す直前、
哀しみという
この世の真実の深さや宇宙の神秘と一瞬だけ出逢えたんじゃないかという気がしてる。
ねえ?
何も知らないまま永遠に神の御許で安らかに過ごせるのと、
この世の真実の欠片に指先が掠めたのち、ずっと暗闇に堕ちるのと。
選べるんなら、どっちを選ぶ?