転んで、膝をすりむいた。 子どもみたいに。
月曜の朝から、会社のガキの尻拭いをさせられて、わたしの機嫌はナナメどころかひっくり返っていた。 だから、靴のカカトの片方を落としたことに気付かなかったのだ。
駅の床に何度もつるり、がくんと転びそうになり、歩く音も変?と足をひっくり返してみて、ようやく気付く。
信号見ても、……走らない。 転びたくないもの。
電車がきても、 ……走らない。 転びたくないもの。
それは注意深くそろそろと、時にはつるり、がくんと、工房に帰る。 ……と
また、そういう日に限って外出する用ができるし。
周囲に靴屋、ないし。
つるり、がくんをいなしながら(体勢が崩れるから、人が振り返るくらいにアクションは派手なのよ)、1日中頑張ったのに。
仕事を終えて、人気のない帰り道。 暗い暗い病院の前の交差点で、
ずりっ。
ついに転んだ。
で、アスファルトの地面に、左膝をずりり。 「いたぁい」 人気がないので、遠慮なく声を出す。
ストッキングが破けて、丸い穴からびゃーっと伝染が伸びている。 ストッキングの丸い穴なんてのも、久しぶりに見た気がする。
その穴の下で、皮膚が破け、だんだん、だんだん血がにじんでくる。
工房に戻るのもタルいし。 まだ残業している他のスタッフに笑われたり世話を焼かれるのもメンドーだし。
ティッシュを畳んで、ずり剥けの皮膚を覆い、ストッキングをひっぱって押さえる。
また、こういう日に限って、膝丈のタイトスカートなんだもの。 みっともないけど、……おばさんは気にしない。
見てくれは気にしないけれど、痛い。 じくじく痛い。 痛いなぁと思いながら、歩く。
歩くバランスが変わったのか、2度と靴が滑らないのが、逆に腹立つ。
家で、キズを洗って。
あとでお風呂に入ってから、軟膏を塗ればいいやと思ったのだけれど。
今、触ってみたら、まだ乾いていないよ。
台東区と千代田区の境目の道路が、赤くプリントされている。
これから、お風呂に入るけれど、さ。
膝小僧をお湯からあげて、ね。
懐かしいのか恥ずかしいのか。
(小学生のわたしは、しょっちゅう、そうしてお風呂の入っていたの)