「ねえ、心に残る歌って、あります? 普通は……」
うん、あるよ。
黙 黙 黙 黙 黙 (不思議な間)
もしかしたら、話の続きを待ってる?
「はいっ」
すごく古いミュージカル映画で『オズの魔法使い』ってのがあってね、その中に『虹の彼方に』、『オーバー・ザ・レインボー』って歌があんのね。
「ああ、はい」
わたしがホントにちっちゃい頃、父が寝物語によく、『オズの魔法使い』の話をしてくれたの。 父の話は原作や映画とはちょっと違っていて、ケシの花畑で毒にあたったドロシーたちが気を失うと、虹の橋がかかって女神さまが助けに来てくれるのだけれど、そのとき父は必ず『虹の彼方に』を歌うの。 あ、映画では全然違うところで歌われるのよ。 わたしは大きくなってから、びっくりするんだけれど。
「その歌、なんですね」
うん。 今のわたしよりよっぽど若い父が、そりゃあ調子ッぱずれにね。
あれは宝物だわね。
わたしがそのまま寝てしまうのか、父がそこで切り上げてしまうのか、わたしはエメラルドの都までたどり着いたことはないの。 何度も何度も話してもらっているはずなのに。
どうした?
「……感動してます」