あげんのオススメ度 ☆☆☆☆☆ (コミックです)
最近のまんがには、「のだめカンタービレ」とか「ピアノの森」とか音楽家を描いた秀作がいくつかあるけれど、この作品がスゴイのは、「音楽」とか「音」の本質を、読者の感性に深く響かせてしまうところでしょう。おとぎ話だとか、設定が出来すぎとか、作品のつっこみどころはいくらでもあるけれど、終章近くはもう、魂を通して全身が揺さぶられる感じです。
もうひとつは「音楽」をビジュアル(映像に近い)として表現していること。
昔、弟と(一度だけだが)こんな遊びをした。弟がピアノ/ラヴェルの小品集 を弾く。わたしは浮かんだ映像を次々と言葉にする……。グランドピアノの天板に、踊るピエロの脚が映ったり、ピアノ本体からぶあっと水が溢れ出し、一面が湖になったり、音の中から絵が流れ、世界になるという感覚。その世界を、美しいとか澄んでいるとかと、感じ取るパーツとして自分がそこにいるという感覚。……実際にはソファにひっくりかえっているだけの自分なのに。
「音」の広がり。遠く聞える街の音を、シンフォニーに例えたのは、夢野久作だった。
「ぽちゃり」という音(たぶん)を静かさの音といったのは松尾芭蕉。
音楽とは、……この世のすべてを含んだ「うた」のこと、らしい。