東京では同じ時期に、
『メアリ・スチュアート』
『メアリー・ステュアート』
と、二本のストレートプレイの公演がありました。(あ。まだやってます! さぁ今すぐ三茶と赤坂に駆けつけて、ともに酔おう!)
『メアリ・スチュアート』はシラー作の群像劇で、森新太郎さんが演出。
『メアリー・ステュアート』はそのシラーの戯曲をもとにした、マライーニ作の二人芝居で、大河内直子さんが演出。
単独で観てもスリリングで豊かな味わいですが、あわせて観たら、もう至福。演劇の奥深さ美しさに酔いました。
もとはね、『ビッグ・フィッシュ』の霧矢大夢さんに惹かれて、他のも観たいなぁと探しあてたのが『ステュ』のほう。知寿さんのストレートプレイも劇団以来観てないし! これは観たい!
チケットは最後尾の壁際でしたが、200人くらいの小屋だから、全部たっぷり目撃出来ました!
『スチュ』のほうはね。実はどうしようかとズット迷ってました。森さん演出だから仕上がりに間違いないのだろうけど、うーん。。。 観ることにした決め手は美術(妹尾さま)で。この劇場の今まで使われたことのなかった機構を初めて使った、つまりセタパブでしか見られない空間!というネットの記事を読み、即買い。
さて。このふたつの舞台は、同じモチーフであるにも関わらず、ことごとく対照的で。どちらもがそれは素晴らしく。役者さんの持つ美しさを存分に引き出し、客席は息をつめてくぎ付けになるだけだったのです。
(こういう、緻密で、全員が役割と着地点を自覚している芝居を、ミュージカルでも当たり前に観られるようになると、うれしいんだけどなぁ)
あーもう! ビアさんがこんなにステキだったとは! エリザベスの役作りと体現が素晴らしかったぁぁぁ! 愛しくて、かわいくて、必死で、怖くて、哀しくて。
長谷川さんのメアリは、言われたことをなぞってるだけみたいな固さが残り、これからを楽しみにって感じの女優さんなのかなぁと思いきや。
終盤になって、死を覚悟してからの祈りをたたえた存在感が、透明で、神々しく、張り詰めた糸のように美しかったのでした。男の人が大好きな、聖女。この空気感を醸せる女優さんは、稀有です。
で、メアリを聖女として描くのが、あー男性の演出家さんならではの視点だなぁと、あとになってから思うのでした。
このふたりの女性が、さまざまな男たちの想いに翻弄され、不幸になっていく。この、男たちの言動も、だってしかたないわよね、と思えるようになったのは、わたしが年をとったからかしら。
そして侍女役の鷲尾さんが、しびれるような完璧な存在感で、ため息つきながら拝見しました。
あとねえ、美術! すごかった! ほぼ、なんもない。見慣れた舞台奥までむき出し! で、張り出し花道が客席中央の階段まで続くの。わかる? 手前から奥までの距離が、大劇場より深い。
でかい流木風のオブジェがどどん!とあるだけで、イギリスの森と日差しになるのも、演劇の魔法。
ゆえに照明も! オレンジやブルーの切り替えとかが、音楽のようにシーンを作ってたし!
大劇場のセンターに立つクラスの女優さんふたりが、小劇場を極上の芝居で満たしてくれる陶酔。なんという贅沢。
テキストの趣向は、ふたりの女王とその侍女を、ふたりの女優が代わる代わる演じ、綾なすことで、すべての女の生涯につきまとう哀しみ苦しみ叫びをあぶりだす感じなのですが、
大河内さんの演出は、ごった返した楽屋で準備中の女優たちの間で、湧き上がり、あやふやな時間軸の中の白昼夢のように交わされるといったふうで。
霧矢さんも知寿さんも男前なのに可憐で、対立するでなく、なれ合うわけでなく、しゅっとそこに立ち、流れるようにセリフを粒だてる。特に役を演じ分けるでなく、シーンの境目も強調せず、なのに無限の風景が、劇場を満たし、こちらの想いは宇宙まで飛ぶの。
ときには甘く、ちょっと百合っぽく香りたち。こちらも微笑む。
知寿さんのエリザベスの解釈が、妙に腑に落ちる。なんというのか、従来あるエリザベス像とはズレがあり、つまりそれはたぶん、ほかの映画や演劇では男性視座で描かれるからかもしれなくて。とにかく、ものすごく揺れる内面を感じさせるベス。そしてテキストだけだとたぶん、めっちゃ嫌な女になりかねないキャラやセリフを、品を損なわず愛嬌すら持たせてしまうのが、知寿さんの魔法だわ。
一か所、どうしても気になったのが首切り斧のことを「ギロチン」と訳していたことで、あの時代にはまだギロチンなかったのに何故? 言いづらくて置き換えたのかしら。時代を超越した楽屋(だってあの時代には女優はしなかったわけだし?)だからありなのかな? まあ、どうでもいいか。
でね。
この順番で観たからこそ!があって、
『ステュ』のセリフにしか出てこないモーティマーやレスター伯とかが、『スチュ』で観た役者さんたちのイメージで立ち上るw
や、レスター伯は『ステュ』ではそれはひどい言われようで、途中から吉田さんとは、かけ離れた。
ふた公演にかかわったみなさま!
演劇を観る至福を、ありがとうございました!